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私は忍者だ。
名前は言えない。秘密なのだ。
突然だが、名無し忍者は愛を語る。
人を愛するには体力が必要だ。いや、愛するのは簡単だが、愛し続けていくのには相当な体力、気力を要する。
愛する者の心無い罵倒、ちょっとした小競り合いがあるたび「本当にこの人を愛しているのか」と自問自答する・・・。
そこで自分は考えた。いざこざがあったらそのたび変わり身の術をしてみたらどうだろうか。
変わり身をした後の自分は本当に妻忍者を愛していた私なのか。
変わり身の術を永遠に繰り返し、それでも妻忍者への変わらない愛を持てるのか確かめるのだ。
「あなたーちょっと」
「いま行くよー」
ちょうどよく妻忍者が呼んでいる。このまま無視だ。
確実にブチ切れるだろう。
(あれ、なかなか来ないな・・・)
(ちょっと様子を見に行こうか・・・)
(机から立ち上がって・・・)ボン!
机の上のコーヒーを足にこぼしてしまった。その瞬間私は変わり身の術を発動していた。
変わり身の術の設定感度を「強」にしていたのを忘れていたので意図しないとこで発動してしまった。
敵との戦いでは一瞬一瞬の判断が命取りになる。強敵との戦いであればあるほど体に危害が加わりそうになった際、
意識しないで変わり身の術をできるよう感度設定を上げている。
(昨日の敵は強かったからな・・・。感度を「中」くらいにしておこう。)
ちなみに変わり身の術について補足しておく。
まず変わり身の術はみんなナ〇トとかでイメージしている丸太に変わるというイメージをしていると思うが、それは正しい。
その丸太は我が国原産の最高級ヒノキを使用して、、、木の説明はここまでにしよう。
ちなみにその丸太は今年80歳を超える私の母忍者が切って薪ストーブに使っている。丸太もボケ防止に役立っているのだ。
言い忘れたが我が家は三世帯忍者共同生活なのだ。
もう一つ、戦闘での変わり身の術は常に相手の死角や背後に現れるようにしているが、マイホームに置いてそれは必要ないので、私の部屋の押し入れに飛ぶようにしている。
長くなったが、今私は押し入れの中からお伝えしている。
汚れて身動きの取れない押し入れ、再度妻忍者の催促の声が聞こえる。
慌てて飛び出し、妻忍者のいる一階へ降りた。
妻忍者はブチ切れていて、あーだこーだ言っていたがよく覚えていない。
ただ一言「もう、使えないんだから」と言われた時、変わり身の術が発動。
ボン!
また押し入れだ。
だめだ・・・私はメンタルが弱かったのだ。 妻忍者の言動で心に危害が加わりそうになり、変わり身の術が発動された。
妻忍者の「痛ったぁぁぁぁ!!!小指ぃぃぃぃいいい!!!」という声が聞こえた。
丸太が妻忍者の足の小指に落ちたらしい。最悪だ。救いようもない。このまま押し入れで寝ていたいところだが、一刻も早く謝るべきだ。
感度設定を「弱」にして、妻忍者に会いに行く。
それからは酷かった。
忍者妻の言動は、感度設定「弱」でも変わり身は発動してしまった。
押し入れから下に降りていくたびに、忍者妻はいちいち突っかかってくるので、
もう相手の背後にまわるようにした。めんどくさいもん。
リビングに丸太が7~8本ほど転がったところで、忍者妻はクナイを投げるようになった。
五右衛門風呂の蓋を閉めていなかったことが原因だと後で聞いたが、ここまでやることか?
そこからの記憶はもうない。
何度も術を繰り返し続け、疲れ果てた私は寝てしまった。
目を覚ますと妻忍者が膝枕をしてくれていた。
「大丈夫?やりすぎちゃった」と、
そこには笑顔の妻忍者。この笑顔に私は惚れたのだ。
変わり身の術を何度繰り返そうと、私の思いは変わらないことが分かった。
そう、私の中の忍者妻への愛は変わらないのだ。
あたりを見回すと、リビングには15個くらいの丸太が散乱していた。
2日後、母忍者は油圧丸太割り機をア〇ゾンで注文した。